富山家庭裁判所高岡支部 昭和46年(家)245号・昭46年(家)243号・昭46年(家)244号 審判
〔主文〕申立人らがその氏を父の氏の「小矢田」に変更することを許可する。
〔理由〕一、本件申立の要旨
申立人らは、主文同旨の審判を求め、その実情として述べる所は凡そ次のとおりである。
1 申立人らは、父小矢田正行と母大野ときとの間に出生した婚外子であるが、大野康明は昭和三九年三月三日、同泰良、同愛子はいずれも昭和四三年六月一三日それぞれ父正行から認知された。申立人らはいずれも出生以来父母の許にあつて養育され成年に達したが、父の籍に入籍したいので本申立に及んだ。
二 事実
<証拠>を総合すると次のような事実が認められる。
1 申立人らの父小矢田正行(以下正行という)は大正一三年五月五日小矢田トラ(以下トラという)と婚姻し主として新潟県、富山県において生活し、その間に五男二女を儲けた。トラは昭和一〇年一一月正行の母の面倒を見るため子を連れて正行らの出身地である沖繩○○町に転居したが、正行はそのまま本土に残り時折妻子の許を訪ねたり、送金したりしていた。
2 その後太平洋戦争が激化し、遂には沖繩諸島が米軍により占領されるに至り正行とトラとの間の音信も途絶えてしまつたので、正行においてトラら母子が上記沖繩戦により全員死亡したものと考え、昭和二三年頃大野ときと夫婦関係を結び、昭和二六年二月一日婚姻届を提出しその間に申立人らを儲け、申立の要旨に記載のとおり認知した。
3 その後、正行においてトラらが生存していることが判明し、昭和四二年三月二日正行とときとの上記婚姻が無効である旨の裁判が確定したが、正行はその後もトラとは別居し、とき及び申立人らと同人らの住所地において生活を続けている。
4 申立人らはいずれも正行とときとの間の婚外子として母ときの戸籍に入籍しているものであるが、出生後現在迄父正行の氏である「小矢田」を使用しており、戸籍上の氏と異るため社会生活を営む上で何かと不便であるので強く改氏を希望している。
5 トラは戦前戦後を通じて長期間夫と別居しその混乱期において姑に仕え、七人の子を養育し婚姻させてきた苦労を思うにつけ自己の属する戸籍内に夫と他の女との間に出生した申立人らが入籍することに強く反対している。
三 判断
1 申立人らが正行と同じ氏を称し、その戸籍に入籍する結果、トラは夫の愛人の子らと同籍するという屈辱感、嫌悪感、世間に対する差恥感に悩やまされることになり、また、氏が夫婦およびその間の子の共同体の呼称であると解するとき、その共同体に属しない申立人らが共同体の氏を使用することは氏の制度を混乱させ、また右共同体たる家庭の平和をみだすものとして許し難いという主張も強ち不当ではなかろう。
2 しかし、申立人らの改氏によりトラが法的に不利益な効果を受けることはなく、また、いずれに責があるかは別として既に二十数年間正行とトラとの間の夫婦関係は途絶え、同人らの子(以下嫡出子という)らはいずれも婚姻しており、同人らの年齢、従前の経緯、現在の生活に照らして一旦事実上崩壊した夫婦親子関係が復活する蓋然性は乏しく、従つて申立人らの改氏入籍によつて今更家庭の平和がみだされるという状態ではなく、嫡出子らが受ける社会的不利益(就職、婚姻等の差し障り)、心理的影響も同人らが除籍されている現在では顧慮する必要がない。
3 他方改氏により申立人らは出生以来事実上使用して来た氏と戸籍上の氏とを一致させることにより、今後氏の二重使用による混乱、不便を避けることができる利益を受けるものであり、その利益はトラの上記感情に優先して保護されるべきものであると解する。そして既に成年に達している申立人らも早晩婚姻等により除籍されて本妻と婚外子とが同籍する状態も永続しないことが予想される。
4 以上要するに、申立人らの申立は理由があるから、これを認容することとし、主文のとおり審判する。
(福井欣也)